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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(れ)229号 判決 1950年6月13日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人大河内又太郎及び同小泉要三の上告趣意第一点について。

しかし旧刑訴第四〇三条に「原判決ノ刑ヨリ重キ刑ヲ言渡スコトヲ得ス」というのは、主文の刑についてのことであって、控訴審判決が第一審判決の認定した数罪の中その一部分を無罪とした場合でも、その言渡した刑が第一審判決の主文の刑より重くない限り、これを以て右の法条に違背するものということはできない(昭和二三年(れ)第七四五号、同年一二月一四日最高裁判所第三小法廷判決参照)。従って第一審判決と同一の刑を言渡した原判決には所論のような違法はなく、論旨は理由がない。

同上第二点について。

本件公判請求書によれば、公訴事実は、「被告人は昭和二一年一〇月初頃から昭和二二年一二月六日頃までの間十数回にわたり………………アルコール合計三八七リットルを代金合計一〇三〇五〇円にて買受けて賍物の故買をしたものである」というのであって、右期間の犯罪が包括して記載されている。しかるに昭和二二年法律第一二四号刑法の一部を改正する法律により連続犯に関する刑法第五五条が削除され、同条は改正法施行(昭和二二年一一月一五日)前の行爲についてのみ適用せられることとなった(改正法附則第四項)ので、原判決は、右の公訴事実を右改正法施行の日を境として二分し、それ以前の行爲を連続犯とし、それ以後の各行爲を併合罪としたのである。この点において原判決は正当であって何等の違法もない。

次ぎに原判決が一部無罪の言渡をした各事実についてみれば、起訴状の公訴事実の記載が前記のように包括的であって、各個の行爲が個別的に記載されていないので、原判決はこれを「起訴明確を欠く」としたものと思われる。しかしこれ等の事実も起訴状記載の公訴事実として摘示した期間中の行為であり、又公訴事実に指摘する犯罪回数、故買したというアルコールの数量等から考えても、これ等の事実も公訴事実に含まれていると認めたものと思われる。そうして原判決がこのように認めたからとて、そのように認めた理由を判決に判示する必要はない。

要するに第二点の論旨はすべて理由がない。

同上第三点について。

所論原審昭和二四年一一月五日の第三回(上告趣意書に「第一回」とあるのは誤記と認める)公判調書並に同年同月一九日の第四回(上告趣意書に「第二回」とあるのは誤記と認める)公判調書には何れも裁判長判事の署名捺印が厳として存し、(第一回及び第二回公判調書にも同様)何等方式に欠けるところはない。それ故論旨は理由がない。

同上第四、第五、第六及び第七点について。

論旨は何れも量刑不当又は事実誤認の主張であるから適法な上告理由とならない。

以上の理由により旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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